中央リニア新幹線 現飯田駅併設は地元のためにならない
2011年8月19日
飯田の街は美しい。離れた位置から街を見ても良いし、街から周囲を見下ろせば絶景が広がる。その景観は、街が天竜川の段丘上に位置するおかげだと思う。
しかしこの地理的条件が、中央リニア新幹線の現飯田駅併設を難しくするのだ。直近の天竜川河床から現飯田駅(標高約510m)まで、標高差が100メートルを超えてしまう。ルート中心部が天竜川を渡る部分から飯田駅まで5km程だから、平均すれば20‰(水平距離1000m当たり20mの高さを登る)少しであり、リニア新幹線の最急勾配規格(40‰)の範囲には収まるが、あくまでもそれは平均の話である。極力地形に沿って建設しようとすれば、局所的には40‰を超えてしまう。それを克服するなら、街の中に大きな掘割を作るか、大断面で土かぶりの薄いトンネルを掘るか、または天竜川を目も眩むような高さの橋りょうで越えなければならなくなる。いずれにしろ、駅の周辺のみならず、街の構造を大きく変えてしまうのだ。平面図だけでものを考えてはいけない。
そればかりではない。「リニア新幹線は今の鉄軌道式新幹線と走行方式が違うだけで、土木構造部分は同様だ」と何となく思っている人がいるかもしれないが、とんでもない間違いである。元々必要幅が大変広い上、伊那谷新駅には待避設備が設けられるはずなので、幅50メートルもの用地を、長さ1kmにも渡って用意しなければならない。類似の設備を持つ鉄軌道式新幹線の、5倍以上の用地が必要なのだ。さらにこの1kmは、高低差の無い完全な平面でなければならないのである。「その分増加する用地買収費用など、“条件闘争”をやってJR東海に出させれば良い」と思っているのかもしれないが、これだけの用地を現駅周辺で捻出するのは、少し考えれば金の問題では済まなされない事であるのは理解できるだろう。駅を作るために、長年かけて築きあげてきた現市街地を、大幅にぶっ壊すつもりなのだろうか?そこまでして現飯田駅に併設しなければならないほど、周辺の皆さんはJR飯田線を利用しているのか、と逆に問いたい。
飯田市だけでなく、周囲からも集客を確実にし、その効果によって停車列車の数を確保するためには、郊外駅にし、アクセスの向上を図ると同時に大規模な駐車場を用意する必要がある。線路用地の確保すら大変な現駅周辺でそれを実行するのは不可能であり、単に街を壊すだけに終わる。集客数も限定され、結局は地域のためにならないのである。JR東海も、飯田線との連絡は最大限考慮する意向だそうだ。冷静な考察と判断を願いたい。