新幹線新規着工・・・相変わらず誤っている中央マスコミの視点/新規着工区間の問題点
2012年1月22日
政府の「新幹線新規着工に前向きの方針」を受け、例によって中央各紙は整備新幹線に批判的な社説を載せた。昔より感情的では無い分、まだマシである。また、ご苦労にも新幹線だけを殊更に取り上げて批判した社説を載せたのは日経(同社2011年12月22日付)と毎日だけであった。
その日経を中心として批評する。
実は以下に記すように、「3線同時£工は疑問」という点では私も同意なのであるが、それは後回しにする。
日経社説の文章には重大な事実誤認がある上、過去及び最近に於ける自社報道に対する責任感が何一つ感じられず、イメージ先行で何も知らない人間が書いたという批判は免れない。その点ではなにも変わっていない。
「採算性を精査していない」と指摘しているが、その採算性検証については何年も前に十分な検討がなされたうえ結論が出され、それに関する報道は日経新聞も含めて各紙が行った。それに触れず、対照例として「東京外環道」を引き合いに出し、「外環道の採算性や経済効率はこんなに良いんだ」と一方的に指摘する態度はどうだろう。もちろん未来の事業については、その効果を事前に知ることは神でない限りできないのだが、その点では外環道でも新幹線でも同様である。なのに、根拠も示さず片方だけ持ち上げるという姿勢は、論理的整合性に欠ける。さらにやった≠アとをなかった≠ニ言うのは報道機関としての良識を疑わざるを得ない。意図的な事実隠蔽工作である。要するに東京への投資は有効だが地方に金を落とすのはムダだ≠ニ言わんが為の、悪質な世論操作の手段である。
これは、朝日・読売・毎日においても同様である。
整備新幹線の収支採算性は、公共事業の中では例外的に精査されている。これには国交省によるものだけではなく、沿線各県が独立の民間シンクタンクに依頼して試算したものも含まれ、費用対効果については問題が無いことが示されている。さらに最も重要視されるべき開業後の実績は、全ての路線において想定を上回っている。一方で地方空港や高速道路は、事前の大甘な査定でゴーサインが出され、結果として想定の半分もクリアできない事業が続出しているが、新幹線はそれらとは明確な好対照をなす。そのようにして地方にばらまかれた、ムダでCO2を大量排出するだけの「98の空港」やローカル高速道が次々と建設されるのを中央論壇として長年放置しておきながら、その異常性を指摘することも無く、今更どの面下げて「空港と整備新幹線の棲み分けをどうするかも重要な検討項目になるだろう」と言えたものなのだろう。なにより、航空や自動車が、新幹線より遙かにエネルギー消費量や炭酸ガス排出効率で劣るという、各交通モードに関する基本的な理解が欠失し、それぞれに対するかつての投資やその効果がどうだったのかを検証することなしに、いい加減な記述をしたところが容認出来ない。
整備新幹線が極めて優良な公共事業であることは、実績が示す客観的な事実なのである。そこをどうしても認めたくないがために、自らがでっち上げてきた『整備新幹線=無駄な事業』というイメージに固執し、それを利用することにこだわっただけだ。精査が必要≠ネのは、自分たちの記述の方だろうが。どんな事業にも負の部分はあるが、それだけを以て可否を論ずることは出来ないし、皆の知恵と努力次第で克服可能な問題だと思う。
各紙とも予算案で政府を批判している。それは毎度のことだが、社会保障などの恒常的に必要な政策的経費が極めて多額で、それが財政を圧迫している一方、歳入が少ないのが問題の本質である。公共事業の是非を論い、それを以て『消費税増税が国民に説明できない』というのなら、国民に間違ったメッセージを伝えてしまう。
来年度予算の国交省配分額は、今年と比べて9%減となる。うち公共事業関係費も約8%減、額面で3450億円の減少となる。この額は、整備新幹線の総事業費(国費ではない)1年分を大きく超える額である。メディアは「公共事業の選択と集中を」と訴える文脈の中で整備新幹線建設を非難するが、まさにその選択と集中をした結果が、新幹線の新規建設決定なのである。それなら大いに結構ではないか。ところで上の数字は、来年度予算に関するいわば『基礎情報』であるが、一体それをどの新聞が社説で取り上げただろうか?それすらもやらずに、雰囲気とイメージだけが、ものの善悪の判断基準になっている。これは恐ろしいことである。
日経の名誉のために触れておく。同社は12月21日に、既開業区間がもたらした効果と札幌延伸の経済効果への期待を表した記事をウェブ版に掲載した。社説とは180度異なるが、分かっている人も少なくないのだ。社説を書くくらい地位と給料が上がり、東京のデスクでふんぞり返っていると、ものが見えなくなるのだ、などと言われないようにして貰いたい。
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ところで、私は上述したように、現行計画のままでの3線同時着工には賛成できない。容認できるのは北海道新幹線だけだ。
北陸は、大阪までのルートと整備方式を正式決定した上で進めたい。事業を進めることには、何ら異存は無い。だが敦賀というのは、結節点としてわけが分からないし、国民にも利用者にも説明できない。金沢までの開業で、大阪・名古屋からの在来線特急が、原則として富山県内に乗り入れることができなくなる。もちろん富山県は様々な策を講じているが、タダで乗り入れ継続は無理だ。JRは明確にそれを拒否したのである。敦賀まで開業したら、大阪・名古屋から、北陸3県の全ての県庁所在地に行くために乗り換えを強要するのだろうか?そんなバカなことが起こるのなら、途中まで整備、などという現行計画はもってのほかである。
九州新幹線長崎ルートは、諫早〜長崎間が新規建設区間に加わり、建設中の武雄温泉〜諫早間と併せてフル規格≠ナの整備が決まる。スーパー特急≠ニ比べ、インフラ部分の計画にはほとんど変更が生じないが、もしこのままの形で開業するなら、本州・博多方面から乗り入れる際、2回も軌間の変換をしなくてはいけなくなる(新鳥栖及び武雄温泉)。こんなバカバカしく、所要時分短縮と相容れないことはない。GCT(いわゆるフリーゲージトレイン=jは、軌間変換装置を通過する際、最減速しなければならず、最悪10分以上の時間損失につながるためだ。結局は、新鳥栖〜長崎間全線をフル規格で整備することを『前提』にしたいのかもしれないが(佐賀県がこれに強く反発しているので出来ない)、その是非はともかく、他のどこでもなく『長崎』である理由が全く説明できない。
3線同時着工≠個別に見れば、大きな問題点を抱えていることは確かだ。その意味では批判されても仕方が無い。だが、中央紙はそんな細かいことまで考えて社説を書いていないことは明白である。